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Visual 生きてます37


★仮設・雨の季節

Kasetu 01
1996.6.29
雨の季節の仮設住宅

 週末ボランティアというボランティア行動に参加させていただいた。(週末ボランティアホームページ)梅雨の季節ではあるが、雨は降らず、かわりに蒸し暑い日だった。
 集合時間13:00に神戸市営地下鉄の終着駅・西神中央駅にいても雰囲気がない。おかしいな、と思っていると改札を出て左側の2階の通路からハンドマイクで声が流れてくる。週末ボランティア代表の東条さんだった。
 この日は、比較的集まりがよくない日だったようだ。私をいれて37名ほど。名札を書いて胸につけると、東条さんから週末ボランティアの主旨や注意事項などが話される。今日訪問するのは西神第7仮設の一部、114戸である。
 市バスに10分ほど乗って西神第7に向かう。

Kasetu 02

 私は、長田区内の小規模の仮設は知っていたが、大規模仮設に入るのは初めてだった。長田に住んでいると、直接の知り合いでもない限りきっかけがなかったのだ。
 想像はできていたが、やはりその大きさには驚きを感じる。見渡す限り、というのはこのことだ。第7仮設全体では1060戸あるという。
 仮設を回っていると、やはり暑い。この日は、雨こそ降らなかったがもちろんカンカン照りではなかった。それでも都会の中よりも暑い。おそらく、地面が草で覆われておらず、陰がほとんどないためだと思う。いわば夏の学校の校庭のようなものだ。これで真夏ならば照り返しでどれほど暑いかと思う。
 おまけに、トタンの屋根が暑くなって天井から熱気がくるという。
 もっと木々があれば、きっとずいぶんましだろうと思うが。
 去年はこの暑さのため、みんなクーラーをかけていたのだが、そのときの電気代がすごい額になったため、今年はほとんどクーラーをかけないのだという。電気代は自己負担なのだ。実際、この日、クーラーが動いている仮設を一件も見なかった。

Kasetu 03

 これから住宅地として造成する土地にそのまま仮設を建てたためか、水はけが悪い。溝が掘られているのだが、土が崩れて水溜まりがあっちこっちでできていた。雨が降らなければ干上がっているのかも知れないが、蚊が大発生するのではないかと思う。

Kasetu 04

 ところどころ、たいへん丁寧に手入れされた畑やお花がある。りっぱなひまわりも、もう花を付けていた。ひまわりは、春に週末ボランティアの皆さんが種を配ったものだという。
 私は、「新人」の扱いをいていただき、ベテランのお二人と仮設を訪問した。一件目で、お家に上げていただき、お話を聞く。

 長田区内にあった自宅はがけのそばに立っていたため、築10年の自宅そのものはほぼ大丈夫だったのだが、がけを固めている壁が破損して危険な状態になった。
神戸市から修繕するよう指示されたので、余震があると報道されていたこともあって、とにかく、がけを補修した。
もし崩れたら、その下の家を押しつぶしてしまうかも知れない。
 しかし、がけを直すために、自宅を取り壊さなくてはならなかった。

 こうして、自宅を失い、がけの修繕費用を負担すると、資金が尽きてしまった。だいたい、10年前にやっと建てた家だったのだ。

 63歳。定年を過ぎて、退職した後の震災だった。今は、シルバーセンターに登録しておいて得た、週に2回ほどの駐車場の管理人の仕事をしている。銀行が金を貸してくれるはずもなく、自宅再建のめどはまったく、ない。

 社会党の裏切りの罪は大きい。という。
 社会党が政権についていたため、震災に対する対応を批判する勢力がいなくなっている。国会での発言を見ている限り、共産党のほうがよっぽど筋が通っている。

 彼は、克明に断層や地層について、研究していた。  明治時代の地図が、あるルートで購入できるといい、自宅付近の地図を手に入れていた。その地図と現在の地層図を同じ縮尺になるようにコピーし、照らし合わせる。さらに断層図とも見比べる。
 昔、長田は池が多くあった土地だが現在はすべて埋め立てられている。昔池だったところは、当然、地盤が弱い。明治の地図によりそれが分かるのだ。

 彼の自宅があった土地は池ではなかったようだが、山側のしっかりした地盤と、堆積層の軟弱地盤の境目にあった。断層でいえば会下山断層と須磨断層にはさまれていた。
 注意すべき場所であったことが、今なら分かる。

 神戸で大規模な地震の可能性があったのは、知られていたことだ。そのことを市民に警告しなかったのは、行政の怠慢だ。しかも震度6の可能性があるといわれていたのを、震度5に過小解釈した対策しかしていなかった。

 東海地方などのような取り組みがあれば、これほどの惨事にならなかったはずだ。神戸市はその罪をどうして感じずにいられるのだろうか。

 私は多くのことを学び、教えてもらった。

Kasetu 05

 一人目の方に90分以上お話を伺っていたため、そのあと一人しかお話を伺えなかったが、お二方ともご自分の思いや事情を語ってくれた。

 仮設訪問の後、西神中央に戻りミーティングを行った後、西神南第4仮設のふれあいセンターで懇親会が行われた。ふれあいセンターというのは、仮設に建てられた集会場のようなもので、カラオケセットやテレビが備え付けられている。
 しかし、1060戸ある西神第7仮設で2つしかなく、離れたところの方はおいそれとはいけないほどの距離になってしまう。また、100戸以下の仮設では建ててもらえないという。
 週末ボランティアにこられている方は、ほんとうに様々な方がいらしている。楽しく時間を過ごさせていただいた。

Kasetu 06

 ふれあいセンターの近くの仮設で飼われていた犬。
のどに手術をされて、ほえられないようにされていた。ホォンホォンと乾いた声を出す。
仮設のすべての犬が手術されているわけではない。この日、すくなくとも2匹の犬からは私は、吠えられたから。

Kasetu 07
夕暮れの西神南第4仮設

 私がお会いしたかたは、たいへん苦しいことを経ながらも、それを私たちに語ってくれるだけ元気な部分があると感じた。おそらく、語る元気のない方もいらっしゃるに違いないと私には思えるのだが、そういった方の話を聞くのはそう簡単なことではないだろう。
そんなふうにも感じた。



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