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Visual 生きてます31

★いかなご

 長田で、春といえば、「いかなご」だ。いかなごとは、体長15センチほどになる細長い魚で、寿司ネタになる「きびなご」に似てはいるが別種だ。
 いかなごは、岡山あたりから淡路、須磨、神戸などでよく漁獲される。今年産卵された稚魚が2センチくらいに育つのが2月後半になる。このころから漁が始まり、徐々に成長する間にも漁が続き、6センチくらいになる4月後半で漁は終わる。この間、漁獲される地域では、生のままのいかなごを各家庭が購入し、佃煮みたいな「いかなご炊き」を作るのだ。ある程度、大きくなったものは「くぎ炊き」と呼ばれ、須磨・神戸の特産品として扱われる。
 長時間煮詰め、水分を飛ばした「いかなご炊き」は常温でゆうに1年は日持ちするきわめてすぐれた保存食である。

 長田では、この季節、多くの家庭がいかなご炊きを作る。けっこう若い家庭でもこれは作るのだ。受け継がれてきた各地域の料理も昨今失われていくことが多いが、都会の中でもこのいかなごは、受け継がれている。
 しかし、去年はガスもなく、ほとんど作られることはなかったし、生のものをみかけることも少なかった。でも、今年はあちこちで見ることができる。

いかなごを炊くことは、長田の春を取り戻すことに他ならない。

IKANAGO 1 
 ピカピカの取れたていかなご。
 いかなごを炊くには鮮度が第一。漁獲されてから6時間以内がベスト。ベテランは、10分でも早く炊くため、魚屋の店先で待ち受ける。手を入れてサラサラしているうちがよい。12時間たつと、ベチャッとしてきて、もうダメ。
 その鮮度ゆえに、いかなごは通常の卸売り市場を経由せず、漁協から直接販売されるルートを持つ。
 魚屋は、鮮度を保つために、いかなごのために輸送体制をひく。通常の仕入れ以外に、いかなごのためだけにトラックを走らせる。しかし、魚屋の商品がほとんど必ず手間をかけなければ売れないのに比べ、手間をかけずに量が売れるいかなごは、大事な商品ではある。
 しかし、不漁でたった20kgしか割り当てがなくても、そのためにトラックを走らせる神戸の魚屋は、単なる金のための商売ではない、いかなごの伝統と店先で帰りを待つ客のための「使命」をおびているようにすら感じられる。

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IKANAGO 4 
 土生姜、醤油、ザラメを入れて炊きはじめる。できるだけかきまぜず、自然にまかせるのがコツ。ふたはせず、水分を飛ばす。
 1kgなら40分〜1時間くらいで炊き上がる。

 いかなごは、砂の中に産卵し、夏の間は砂の中で夏眠するという。海底の砂がなくては生存できないのだ。しかし、昨今、建設用に海底の砂が採取され、いかなごの生育が心配されている。

IKANAGO 5 
 ちょっと気取って盛り付けてみた。
 これがあれば、何杯でもおいしくごはんが食べられる。(^o^)
 上に添えているのは「木の芽」(コノメと読む)。さんしょの若葉である。こんな風に季節もの同士がぴったり合う組み合わせを「であい」と呼ぶ。神戸の春の「であい」がいかなごと木の芽なら、秋のであいは「つばす」と「すだち」だ。(この話題はまた秋にしましょう。(^^))

 神戸名産「いかなごのくぎ炊き」は、けっこう各地でも売られていると思う。みかけたら、ぜひ賞味して欲しい。



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